キミが望むのなら
この後、おばあ様の紹介で、4代目として挨拶をした。
挨拶が終ったら、拍手が鳴り止むのも待たないまま、俺は店の裏に行った。
「悠、早く着替えろ」
「おう!」
信二に服を投げ渡されて、急いでそれに着替える。
さすがに着物じゃ走りにくい。
「お前さ、いくら急いでたからって、あのスピーチはどうよ」
笑いこらえながら言うなよ……
「いいだろ。別に。必要最低限だ」
「まぁ、確かにな。『僕は立派な4代目になります。それが僕の夢だから……』なんて、こんな短い挨拶をするのはお前くらいだよ」
うるせ……
言いたいことを簡潔に言って、早く桃香を迎えに行きたいんだよ。
「悠、これ」
そう言って差し出されたのは、丸っこい字で書かれた、桃香に引っ越し先の住所。
きっと美樹ちゃんの字だな……
「美樹が、悠に任せたってよ」
……美樹ちゃん。
「あぁ―……。じゃあ、俺行くから」
「頑張れよ!悠!!」
「ありがとな!信二!!」
ギュッとメモを握りしめ、俺は店を走り出した。