スイートなメモリー
雪花女王は、ソファに腰掛けてニーハイブーツを履いた長い足を組む。
天井に取り付けたオレンジ色のライトがブーツのエナメルに当たって、艶かしい照り返しを見せる。
私も前から気がついていた。
雪花女王が学人さんを気に入っていることを。
学人さんがようやく手に入れた奴隷のことを話すたびに、雪花さんが少なからず嫉妬していることに気がついていた。
そして、それに対して私が。雪花さんの心をとらえて離さないでいる学人さんに対して嫉妬していることにも。
私は前から、気がついていた。
私は、雪花さんを好いている。
それが愛なのか隷属なのか、憧れなのかはわからない。
ただ、私は雪花さんの側に居たいと思っていて、雪花さんが気に入っている学人さんを疎ましいと思わないわけではないのだけれど、学人さんが店に来れば雪花さんが喜ぶ。
学人さんが悲しめば、雪花さんが悲しむ。
だから、私は慈愛の心を広く持って、雪花さんが愛す学人さんを愛そうと思った。
そうすれば、私は雪花さんの笑顔を見ていられる。
だから、学人さんを悲しませる学人さんの奴隷を、許してはいけないと思った。
雪花女王が悲しんだり、いらだったりするのを見たくなかった。
それが学人さんの奴隷のせいなら、なおさら許すことはできないと思った。
学人さんが、雪花女王の愛に気がついたらいいのに。
雪花女王が、学人さんを手に入れたらいいのに。
私は、幸せなふたりの側に居られればそれでいいのに。
学人さんの奴隷が、雪花女王の彼への愛に圧倒されればいいのに。
学人さんの奴隷が、彼はご主人様にはふさわしくないことに、気づけばいいのに。
私は雪花女王のためならなんでもする。
学人さんを愛することも、学人さんを慰めることも、学人さんの奴隷に共感することも貶めることすらも。
それで雪花女王が喜ぶのなら。
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