スイートなメモリー
だから、雪花女王が学人さんを手に入れるために、学人さんの奴隷と対峙するつもりになったのならば。
私は演じよう。
どこにもない、ありもしない、享楽の夜を。
こんな人たちとは理解しあえるわけがないと思うような、「それらしい」姿を。
学人さんを見つめる雪花女王の姿、自分の奴隷を信じてじっと待つ学人さんの姿。
私はふたりを見て少なからず興奮を覚えている。
窮屈なエナメルのメイド服に包まれた胸の谷間にじっとりと汗がにじんでいる。
そっと隙間に指を差し入れる。
指先にぬるりとした感触があり、太ももの肌が粟立つのを感じる。
私にはわかる。
今夜、なにかが変わる。
学人さんの奴隷が来ても来なくても。
なにかが変わる。
「美咲」
雪花女王が私を呼んだ。私は雪花女王の足下へと跪く。
雪花女王は、いらだちを隠さずに私の肩に腕を回して抱き寄せたまま、私のふくらはぎを乗馬鞭で打ち始めた。
学人さんはそれを見ながら、タバコに火をつける。
学人さんの奴隷が、四○四号室のインタホンを鳴らすまで、私は雪花女王に身を預けながら、学人さんが私のことをうらやましいと思っていたらいいのにと考えていた。
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