スイートなメモリー

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六本木駅から少し離れたマンションの一室が、俺が学生の頃から通いつめている店だ。
エレベーターで四階へ上がって、四○四号室のインタフォンを押す。
店の名前もそのまま「四○四」だ。
この名前にしたくて、わざわざ四○四号室を借りているのだという。

入り口でいつも出迎えてくれるのは、美しい裸体を隠すことなく堂々と椅子に腰かけた球体関節人形の「肉子」。身長百六十センチ弱の美少女だ。
この店には肉子以外にも大小さまざまな球体関節人形がいる。
初めて来た時には、その人形の多さとリアルさに恐怖感すら感じたものだ。今では慣れて肉子に「やあ今日も肉子はかわいいね」などと返事をもらえぬ挨拶を投げかけたりしている。
そして、店の奥でソファに座って客を待っている人形達の主人は、本人も人形みたいな……。

「雪花さん」
「学人さん、いらっしゃい」
雪花さんは今日も美しい。
青白いくらい白い肌に、つややかなストレートロングの黒髪。
着ている服は黒い薄手のニットソー。Vネックが白いデコルテを強調している。その下にはこれもまた黒い革のタイトスカートを履いて、黒いストッキングに黒い革のロングブーツ。
俺も私服はほとんど黒づくめなのだが、それは雪花さんに影響を受けている部分が多大にある。
雪花さんは座っていたソファから立ち上がり、俺にそこに座るよう勧めて、カウンターの中へ入っていった。
「なに飲む?」
「じゃあジンライムをください。今日は雪花さんだけ?」
「平日だしね。昨日はたくさんお客さんが来ていたから、今日はきっと静かだと思うわ」
「そうか。じゃあ俺も家で一人飲みなどせずに、昨日くれば楽しかったかしら」
「あら、学人さんは私とふたりで話すのイヤなの?」
「雪花さんとふたりきりなんて緊張しちゃう」
「まあ。なにもしないわよ」
「なにかしてほしくても雪花女王には恐れ多くて頼めません」
雪花さんは、俺の「雪花女王」という呼びかけに、目を細めて笑った。そのまぶたには赤いアイラインが引かれていた。
白い肌に、赤いアイラインと黒いシャドウと、艶のない赤い口紅が良く映えている。
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