スイートなメモリー
三枝君に触れたい。もっと私に触れてほしい。
いつのまにか、三枝君のことが好きでたまらなくなっている。
自分は彼にふさわしくないのじゃないか、私はもっと現実を見て将来を考えてくれる人とつきあったほうがいいのではないか、自分の年齢も考えないといけないのじゃないか。
色々なことを考えるし、不安なのだけど、理性とは裏腹に身体は新しく植え付けられた衝動を欲していた。
首筋に置いていた手をそっと胸元まで下げてみる。その手を恐る恐るさらに下げて、身体の中心に触れてみる。
自分の身体なのに、熱を帯びて湿っていることに驚いてひるむ。ひるんだのもつかの間、誘惑に勝てずに指を押し進めてみた。
三枝君の声を思い出す。耳元でささやかれた言葉を思い出す。身体はタオルケットにくるまれているのに、一瞬で肌が粟立った。
この前感じたあの感覚を思い出そうと、指で自分の身体を探る。彼があの時どんな風に私を弄んだか必死で思い出す。
今までこんなことしたことないのに、という後ろめたい気持ちと、押し寄せる快感に耐えきれずに動き始める身体の両方をなだめるようにして自分を慰める。
「……っ。まな、とさまっ。すき……」
最高潮に達した時に自分が漏らした言葉にがく然とする。
無意識とは恐ろしい。
私はもう三枝学人に籠絡されてしまっているのか。
既に私は彼を自分の飼い主と決めてしまっているのか。
足首にからまっているショーツを直すのも忘れて、枕元にあるクッションを乱暴に抱きしめる。
「どういうことよ。これじゃまるで私が三枝君の身体に溺れているみたいじゃないの」
先のことがどうなるのかまったく見えない不安と、この快感を失った時の恐怖に戦慄する。泥沼に足を踏み入れたことをわかっているのに歩を進めているような気分になった。
明日会ったらどんな顔をすればいいんだろう。
明日会ったら、なにから話せばいいんだろう。
ぐるぐると考えているうちに朝が来て、いつもと同じ時間に目を覚ます。
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