ラッキービーンズ【番外編】
「水嶋の慌てた顔見たいって話は……」

「いやいや、絶対慌ててるって! まぁ、あの水嶋さんにひと泡吹かせただけで、俺の勝ちってことにしとく!」

「勝ちって……」


慌ててないかもしれないじゃん……なんてお得意のネガティブなセリフはさすがに言わなかった。

だって八木原くんが100%水嶋の私への気持ちを疑ってないのに、当の私が疑ってるみたいな気がしたからだ。


八木原くんのペースに流されて、本当に水嶋が慌てて私を探してるんじゃないかなんて気にさえなってくる。


「マンションまでは送るから」


そう言って来た道を戻る八木原くんの足取りは軽い。

私も水嶋が心配しているかもしれないと早足で歩いているけれど、不安な気持ちは消えていない。


だって八木原くんが帰ってしまっても、マンションにはリアちゃんがいる。

今夜勝負する気のリアちゃんと三人で、一体どんな夜を過ごせばいいんだろう。


もともと、今夜は水嶋のマンションに泊まる約束をしてるから、私が帰る場所はそこしかない。

第一、私が逃げ帰るなんて変だし、そこまでお人よしじゃない。


渡せないものは渡せない。


「じゃあね、メイちゃん。ハッピーなクリスマスを!」


引っかき回した本人の八木原くんに言われるなんて微妙な感じだけど。

私は下手くそな笑顔をはりつけて、エントランスで彼に手を振った。

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