渇望の鬼、欺く狐
 その晩は、狐は眠りにつく事が出来ずに。

 ただ呆然と一点だけを見ながら、時間を過ごした。

 精神的に、疲れていたのだと思う。

 疲れているクセに、眠ろうという気にもなれない。

 だって自分と寄り添ってくれる相手など、もう居ない。

 何も考えぬように。

 何も感じぬように。

 そうしていなければ、陥った事実に心が押し潰されてしまいそうだった。

 意識しながらに呆然と過ごす時間は、狐の空虚感を肥大させていくだけだったけれど。

 苦しさや辛さ、悲しみや淋しさを感じ続けているよりは、幾分かだけマシだったようにも感じられる。

 やがて日が昇り、辺りに清浄な朝の空気が立ち込めても、やはり狐は呆然と一点を見つめていた。

 朝になるまでに、もしかしたら戻ってくるかもしれないという、心のどこかでの期待が打ち砕かれて。

 同時に、心のどこかで、そんな期待を抱いていた事にも気付く。

 その期待に気付いてしまえば、その思いを捨てる事が難しくなった。



 朝は迎えてしまったけれど、いつか戻ってくるかもしれない。



 狐は、そんな事を考えてしまったのだ。

 その日から、狐はたった一匹、静かにその場所に佇んで。

 家族が戻ってくる事を、一心に祈り続けた。



 

< 144 / 246 >

この作品をシェア

pagetop