渇望の鬼、欺く狐
 背筋を瞬時に駆けた冷たい感触と、体の芯からの震え。



 逃げられない。



 狐はその事実を、本能的に理解してしまった。

 理解していながらも、足を後ろへと下げようとする行為は、何の為だろう。

 その答えは、狐の頭の中で浮き彫りになる。



 皆が戻ってくるかもしれない。

 折角戻ってきたって、自分が骨になっていれば、もう会う事も出来ない。

 だから逃げなきゃいけない。



 その答えだけで十分だったのに。

 狐は浮き彫りにした答えとは相反する疑問を、頭によぎらせてしまった。

 その疑問は。



 ……皆は。



 家族を待つ間、戻ってくるようにと祈る間。

 常に頭のどこかに存在していて。

 だけど、それに気付かぬように、待つ事で祈る事で。



 ……本当に戻ってくる?



 覆い隠そうとし続けていた疑問だった。





 
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