渇望の鬼、欺く狐
 これまでは、気付かぬフリをし続けた。

 諦めてしまえば、自分はどう生きていけばいいのかも、わからなくなる気がして。

 信じてさえいれば、それを糧に生きようと思える。

 そんな気がしていたから。

 だけど。

 こうして、その疑問と向き合ってしまえば、その答えは簡単に予想が付いてしまう。

 だってもう、何日も待ち続けた。

 きっと明日は、なんて。

 何度、同じ事を思っただろう。

 そもそも。

 戻ってくるつもりがないと、強い意志があったから。

 だから母親は、背中を向ける前に、頬を舐めてくれたのではないだろうか。

 それが最後だと。

 そのつもりで。



 次々と導き出される予想は、皮肉なまでに狐の心に事実として入り込んでしまう物ばかりで。

 それらを受け入れた時。

 狐は、自棄にも似た感覚に陥る事となる。



 ……もういいや。

 どうせ皆だって、俺が大きくなるまで生きてられるなんて、思ってないんだろう。

 俺の事なんて。

 もうとっくに忘れてるかもしれない。

 だったら。

 生きる事なんて諦めて、さっさと食べられてしまおうか。



 逃げる事を止めて。

 体を動かす事を止めて。

 無抵抗な事を見せ付けるように、地面へと寝転ばせた体。

 地面を踏み付けて歩いてくる足音が、少しずつ音量を上げて狐の耳へと届けられた。
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