渇望の鬼、欺く狐
 ――同時刻、社内。

 少年の衣類を畳み、それが済めば、少年の為に夕飯の準備を始めようと考えていた鬼。

 だけどその予定は、脳を揺るがす警鐘と共に狂う事となった。



「……っ、旭……?」



 自分の行動範囲へと張り巡らせた結界。

 その中に居る気配から、少年の気配が消えてしまった。



 おかしい。

 あれ程、気を付けるようにと雪に言い聞かせてきたし、雪もそれを理解しているハズなのに。



 大きな不安が鬼の胸中に湧き上がり、色を強めては支配していく。

 次の瞬間、鬼は立ち上がり社を飛び出した。



 雪と一緒に出かけたのだから。

 雪の気配を追えば、旭に辿り着く。



 その予想を信じて。



「旭……、旭……」



 姿が見えない事により煽られる不安を、少年の名を呼び続ける事で紛らわせながらに鬼は急ぐ。

 辿り着く間に、少年が結界の中に戻る事を祈って。

 自分の不安と心配が、無駄に終わる事を祈って。

 
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