渇望の鬼、欺く狐
 鬼を取り巻く不安と心配。

 きっと鬼が辿り着くその瞬間まで、それらの感情が消える事はないだろう。

 だってほら。



「まさか本当に居たなんて……。大丈夫だったか?!」



 少年の体は、未だ見ず知らずの男に、しっかりと捕らえられているのだから。



「……っ、ぁ、……ぅ、ぁ」



 怖い。

 怖い。

 怖い。



 これまで少年の傍に居続けた存在は、鬼と狐のみ。

 急に現れ、自分の体を拘束し言葉をかけてくる男たちに、少年は恐怖を覚え、言葉を失ってしまっていた。

 こうしている間も、動悸や眩暈が治まる事はない。

 早く先程の位置に体を戻したいにも関らず。



「可哀想に……。こんなに怯えてしまって……」



 一人の男に体をしっかりと抱き込まれて。

 自分を取り巻くように、数人の男たちに覗き込まれている。

 これまでに、こんな状況に陥った事のなかった少年にとって、この状況を打開する術など見当たらずに。

 ただただ頭の中で、「助けて」と繰り返すばかりだった。
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