渇望の鬼、欺く狐
「とにかく……、俺たちと一緒に山を降りよう」



 告げられた言葉。

 その言葉に、瞬間的に少年は足に力を込める。



 駄目だ。

 行っちゃいけない。

 何としても、抵抗しなきゃいけない。



 強い思いが、少年の心に浮かび上がって。

 その思いを打ち砕くかのようにして、男たちは少年を連れて行こうと体を押してくる。

 抵抗し続ける少年に埒が明かないと踏んだのか、少年の体を捕らえていた男が、少年の脇へと手を入れた。

 恐らく、少年を担ごうとして。



 もう駄目だ。



 少年が感じた絶望。

 こちらが一人である事に対し、向こうは数人。

 それも自分よりも体格の大きな者ばかり。

 抵抗を続けたい気持ちよりも、絶望の方が大きくなってくる事を、少年が実感したその瞬間だった。



「――その子に何をしている?」



 聞き慣れた凛とした声。

 その声は、普段よりも硬く強い。

 だけど少年は、その声に絶対的な安心を感じたのだ。

 これから目に映す事になる悪夢も知らずに。
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