渇望の鬼、欺く狐
「その子を返せ」


「だ、駄目だ……! この子は人間の元へ連れて帰るんだ……!」



 怯みながらも、男たちは意志の強さを、鬼へと見せ付けるように言葉を返した。

 そんな男たちへ向けて、鬼はその顔から表情を消し口にする。



「……相容れないのであれば。……死んでもらうしかないね」



 少年を連れて行こうとする男たちへの、憤りの全てをその言葉へと乗せて。


 鬼が一歩近付くに連れて、少しずつ後退していく男たち。

 この時点では。

 形勢は、鬼の方へ向いていたハズだった。

 そう。



「こ……殺せ……! 鬼を殺せ!」



 恐怖に負けた男たちが、その手に折った太い木の枝を握り締め。

 狂気にも似た殺気を鬼へと向けた、この瞬間までは。



「……めて、……やめて」



 男たちの腕の中、少年は体を震わせながら声を漏らす。

 その声は男たちには届かない。

 だけど鬼へと届いてしまったのだ。

 
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