渇望の鬼、欺く狐
 小さく縮こまった体。

 か細く震えた声。

 そこから伝わる少年の不安と恐怖を汲み取ると、鬼は少年へと微笑みかけて、その名を呼んだ。



「旭」



 その声は優しく透き通っていて。



「大丈夫。すぐに終わるよ」



 慈愛と温かさに包まれた声だったように思う。



「終わったら、すぐに帰ろうね」



 鬼はただ、少年を安心させてやりたかっただけだ。

 他の目的などあったわけではないし、それは少年に対する愛情故の行動だった。

 少年の安心を導く以外の結果など。



「どう、して……、そんな声を出す……」



 必要なかったのに。



「意味がわからないね」


「この子を食おうとしてるお前が、どうしてそんな顔でこの子を見る?!」



 伝わってしまったのだ。

 鬼の少年に対しての愛情が、目の前の男たちに。

 鬼の口から発せられた声からも、少年を映す目にも、偽りはないと。 
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