渇望の鬼、欺く狐
 鬼には考えがあった。



 いくら人間に殴りつけられようとも、鬼である以上は体も頑丈なのだから。

 痛手を負ったところで、心臓を跡形もなく潰されるような事さえなければ、命を落とす事はないだろう。

 適当に殴られてから、動きを止めて。

 死んだフリでもすれば、人間たちはそこで満足する。

 意識が逸れて油断した瞬間に、旭を奪い返せばいい。



 少年の首には、未だ男の腕が巻きついている。

 それ故に、鬼は下手に動く事も出来ずに。

 頭に浮かべたその策が、一番この状況に適した方法だと考えられた。

 鬼の目の前へと辿り着いた男たちは、枝を手にしながらも中々振り上げようとはしない。

 息を荒立て、誰かが最初の一撃を振るう瞬間を、それぞれに待っている様子だった。

 男たちとて、いくら鬼といえど、殴りつけて命を奪おうとする行為に対し、心のどこかで躊躇しているのかもしれない。

 そんな男たちへと向けて、鬼は零す。



「怖気付いたかい?」



 男たちに僅かに残った、理性の引き金となる言葉を。

 早く少年の恐怖を終わらせてやりたい、と。

 早く少年を抱きしめてやりたい、と。

 その一心で。



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