渇望の鬼、欺く狐
 ――旭、思い出せ。俺と交わした、最後の約束だ。



 少年の脳裏によぎる、あの日の約束。



『……何があっても。藍を守れ』



 忘れたわけではない。

 守れなかっただけだ。

 その事実は少年を苦しめて、少年の目から更に涙を溢れさせた。



『肝心な時以外は泣いちゃ駄目だ』



 その約束も守れなかった、と。

 ここでもまた、少年の心を締め付けながら。



 ――このままだと藍は死ぬぞ。それでいいのか。



 脳に届くその声に、少年は視線を鬼へと戻して。

 未だ男たちに殴られ続けている鬼から、咄嗟に目を逸らしてしまった。

 自分で思うよりも、他者に告げられた「死ぬ」という言葉の方が、何倍も重みと現実感を伴ってしまったのだろう。

 少年のそんな行動を咎めるかのように、脳内には聞き慣れた声が響かされた。



 ――逃げるな、旭!



 強い強い声。

 普段からは考えにも及ばない声色は、少年を責めているようで。

 どこか急かしているようで。

 少年は無意識に、その声に答えるように心の中で言葉を紡ぐ。

 どうすればいいの? と。



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