渇望の鬼、欺く狐
 これまで静かに耐えていた鬼の脳裏に、いつかの声が蘇る。



『――に、げろ、……い、藍』



 遥か向こう、もう届かない程にまで遠ざかっていたその声は。



『……早く、……旭、を、……連れて』



 今この瞬間、鬼の中にしっかりと呼び起こされてしまった。

 そこで鬼は、ようやく気付く。

 あの時と同じだ、と。

 ただ。



「旭……、大丈夫、だから……」



 その声は、少年には届かなかったけれど。

 そして。

 少年の脳には、その声が届けられた。



 ――旭。藍が死ぬぞ。お前を守る為に。お前の所為で、藍が殺されるんだ。



 その言葉は。

 少年の心を憎悪で埋め尽くし、満たしてしまう物。



 許さない。

 母ちゃんを傷付けるこいつらを。

 殺そうとするこいつらを。

 許さない。

 許さない。

 許さない。

 全員、――消えてしまえばいい。
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