渇望の鬼、欺く狐
 男たちに抱いた強すぎる絶望。

 その絶望は、憎悪に変化するには容易すぎた。

 鬼が「駄目だ!」と大きく放った言葉すらも、少年に届く事はなくて。

 否、届いていたとしても。

 きっと、すでに遅かっただろう。

 少年の中で振り切れた感情は、衝動的に少年に声を放たせてしまった。

 その声は、先程までか細い声しか出せずにいた少年からは、想像も及ばない程に、辺りを大きく震わせる物。

 その場にいた男たちは、震撼すら感じる前に、その声に飲み込まれてしまう。

 強大でいて凶悪な――絶対的な憎悪の中に。


 少年が声を止ませても、その余韻は暫し空間に留まった。

 電流でも流れたかのような、ビリビリとした空気と、木々が立てた葉を揺らす音。

 その空間の中。

 すでに男たちは地面に倒れ、誰一人として、息をしている者は存在しなかった。

 視界に広がる光景に、呆然とする少年と。

 少年を視界に入れて、同じく呆然とする鬼。

 辺りを異様なまでの静けさが覆った頃。

 この雰囲気に、あまりにも不釣合いと感じられる、軽快な拍手の音が響く。



「見事だよ、旭。よくやった」



 どこかワザとらしく明るい声を発し、拍手を止めないままに。

 その者――狐は、少年の前へと体を運ばせる。

 狐は、未だ呆然とする少年の頬に手を添えて、ペロリと舌で少年を撫で付けた。



「――立派な角だ」



 少年の額に生えた、一本の角を。 
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