渇望の鬼、欺く狐
「ゆ、き……? どういう事だ……?」



 戸惑いがちな声を耳にした狐は、声を放った鬼の方へと視線を向ける。

 ニヤニヤと笑いながら鬼の方へと足を進めた狐は、しゃがみ込んで鬼との視線の高さを近付けた。



「随分やられちゃったねー。痛いの痛いの飛んでいけーってしてあげよっか」


「ふざけるな! どういう事だと聞いてるんだ!」



 苛立ちを誘う狐の言葉に、声を荒げた鬼。

 その声を聞いても、狐の態度が崩れる事はない。

 ニヤニヤと口元を上げて。

 愉悦を惜しみなく押し出して。



「お前……、まさか……」



 狐の態度から、嫌でも予想してしまう事柄。

 それがただの予想であるようにと願いながら。

 違った事実が存在するようにと願いながら。

 未だ消える事のない戸惑いを抱え、鬼は紡ぐ。



「お、前が……、人間をここへ寄越したのか……?」



 空間に流れるは、一瞬の間。

 交差する戸惑いと愉悦の視線は、温度差すらも感じさせた。
 
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