渇望の鬼、欺く狐
『人間は人間同士で結婚しなきゃいけない。誰からも祝福されて。家族を作って。それがお前の幸せになる。だから……』


『嫌だ!』



 もう自分の気持ちを否定する言葉なんて、聞きたくなかった。

 遮るように放った言葉に、楓が口を噤んだ事を目に映しながら。

 それを良い事に、自分勝手な気持ちを押し付けるようにして言葉を吐き出した。



『勝手に私の幸せなんて決めないでよ! 楓じゃなきゃ嫌!』



 ただの我儘だと理解していた。

 必死だったのだと思う。

 楓は受け入れてくれるとばかり、思っていたから。



『私の事なんて、もう誰もお嫁に貰ってくれないよ……』



 楓の言動にも表情にも。

 裏切りすら感じてしまったから。



『楓とじゃなきゃ、幸せになんてなれな……』



 言い切る前に、口元を覆った楓の手。

 最後まで言わせてくれない楓に、再度悲しみや辛さを膨らませたけれど。

 それは目の前にある楓の表情が、苦しそうに歪んでいた事で、思考を散らしてしまう事となる。
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