渇望の鬼、欺く狐
「彼ら」は、翌日にやって来た。

 昨日と同じく、社の外で旭と楓の帰りを待っていた私のところへ。

「彼ら」は、下品に息を荒立てながらに、私たちへと詰め寄ったのだ。



『ほら! 嘘じゃなかっただろ!』



 私と旭を指差しながら、一人の男が声を放つ。



『死んだと思ってたら……、何でこんなところに……。そいつは何だ! 頭から角を生やして……! 化け物じゃないか!』



 男たちには、全員見覚えがあった。

 私が捨てた、生まれ育った地。

 そこに居た連中だった。

 小さな集落だったから、そこに住んでいた者は、全員顔見知りだったとも言える。

 小さいが故に、噂が回る事も早くて。

 だからこそ私は、家を出る時に家族に置手紙を残したのだ。

【ごめんなさい、どこか遠くの地で死にます】と書いた手紙を。

 私は。

 完全に油断してしまっていたのだと思う。



 きっと私を知る人間たちは、皆私が死んだと思っている。

 頑なに結婚を断り続ける私を、周囲の人間はどこか白い目で見ていたし、変な気を起こしたぐらいに思ってくれるハズだ。

 だから私を探す事もしないだろう。



 そんな考えは自分の中にあったし、何よりも、この社に誰かが訪れる事もないと踏んでいた。

 ここに来るには足場も悪いし、私が住んでいたところでは、皆この森を不気味だと言って、近付こうとはしていなかったから。 
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