渇望の鬼、欺く狐
『そこで何をしている?』



 その声は、普段からは考えられない程に、強さを携えていた。

 だけど同時に、その声は自分と旭を守ってくれる物だと、そんな理解を抱いて。



『かえ、で……』



 未だ肩に強い感触があるにも関らず、心には安心が湧き出した。



『ここにも……化け物が……』



 驚きに満ちた声と、彼らから漂う動揺。

 それを感じ取った私は、その瞬間彼らの隙を突いて、楓の元へと駆け寄った。

 強く抱きしめられる心地に、擦り寄りたい気持ちも事実。

 だけど彼らの存在が残す緊迫感に、その気持ちは遮られていた。



『怪我は?』



 訊ねてきた楓に首を横に振って伝えれば、楓は一つ頷いて見せた後、私の耳元で告げる。



『いいかい? 藍は旭を連れて逃げるんだ』



 湧き出していたハズの安心が、途端不安に覆われてしまう。

 そんな私の思考を汲み取ったのであろう楓に向けられた表情は、いつもと同じ、優しくも美しい笑顔だった。



『大丈夫。ここは私が何とかするから。すぐに二人に追い付く。いいね?』
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