渇望の鬼、欺く狐
『二人に手を出すな』


『化け物は人間を脅かす! こいつの事だって、お前がたぶらかしたんだろ!』



 違う。



 何度も頭の中で繰り返した。



 楓も旭も、化け物なんかじゃない。

 楓の優しさを、何も知らないクセに。

 楓の事を、何一つ知らないクセに。

 旭がどれ程、望まれて生まれた子か。

 知りもしないクセに。



『いいか、化け物を逃がすな! やられた仲間の敵を取るぞ!』


『松明に火をつけろ! 全員ここへ呼ぶんだ!』



 ただ頭から角を生やしているというだけで、二人を化け物扱いする。

 無害な命を奪おうとする。

 殺気立って、理不尽な感情を押し付けて。

 化け物は。

 お前たちの方だ。



 悔しさか、憤りかはわからなかった。

 ただ、腹の底から込み上げる激情は、私に行動を起こさせたのだ。

 体を羽交い絞めする男の手に、力いっぱい噛み付いて。

 咄嗟に男が力を緩めた瞬間に、私は旭を手にする男の方へと走っていた。

 だけど。



『……っ、こいつも殺せ! こいつももう、人間を捨てたんだ!』



 別の男に髪を引かれ、地面へと倒された事で、自分の手が旭に届く事は叶わなかった。
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