渇望の鬼、欺く狐
 楓の口元から紡がれる、小さな小さな声。

 咄嗟にその名を呼び返した。

 まだ生きているのだと、そんな事を期待して。

 だけど違ったのだ。



『……逃、げろ、……い、藍』



 楓は。



『……早く、……旭、を、……連れて』



 死して尚、私と旭を守ろうとしていた。

 強い念が、すでに命を失った楓から言葉を紡がせていたのだろうか。

 楓の中では、未だ私も旭も危機にあるのかもしれない。



 ごめんなさい。



 大きく顔を覗かせる謝罪の念。



『……っ、……楓』



 貴方に守ってもらう事しか出来なかった。



『も……大丈夫だよ……? もう逃げなくていい……』



 自分の身どころか。

 旭の事も守れなかった。

 辛い決断をさせてしまった。



『もうずっと三人で一緒に居よう……? もう誰も、私たちの邪魔なんてしないよ、だから……』



 本当にごめんなさい。

 今度は私が追いかけるから。

 すぐに追い付くから。

 その時は、どうか笑って見せて。


 早く二人に会いに行きたい。

 急かされる思い、命を捨てる事。

 私がそこに感じた物は、恐怖などではなく。

 希望と期待だった。 
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