渇望の鬼、欺く狐
 一人で良かった。

 思い出にしがみつきながら、孤独と生きていく。

 そのつもりだったのだ。

 それが自分に出来る、楓と旭への償いの仕方だと思っていた。

 なのに。

 なのに私は。



『随分とみすぼらしいね』



 声をかけてしまった。



『悪いが、お前にくれてやる餌なんて物は何一つないよ』



 楓と同じ口調で。

 口調を揃える事で、思い出に近付ける、と。



『野生が鬼なんかに擦り寄るもんじゃないよ』



 そんな浅ましい思考をよぎらせながら。


 心根では、怖くて堪らなかった。

 楓の柔らかな声も、優しい笑顔も。

 旭の笑い声や、あどけない表情も。

 あんなに頭に焼き付いていたのに。

 忘れない、手放さないと、心に強く誓ったのに。

 それは意思とは裏腹に、時が経つ度に風化し、霞がかっていく。

 いつか完全に、自分の中から消えてしまうのでは、と。

 その思いは、恐怖にしかならなくて。

 だから私は。

 口調を揃える事で、遠ざかっていた思い出を引き寄せようとしたのだ。

 伝わるかどうかもわからない言葉を、自分に付き纏う雪へと。 
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