渇望の鬼、欺く狐
 鬼が元々人間だったのであれば、少年もまた鬼になれる可能性があるという事。

 利用するべき物は、鬼の持つ強大な瘴気と。

 いつか自分を覚醒させた、強い憎悪の念。


 その仮説に辿り着いた時、狐は嬉しくて堪らなかった。

 狂おしさすら伴う感情を抱く二人と、長い時間を共に過ごせるのだと思えて。

 だけど鬼は、すぐにその願望を打ち消したから。

 例え人間が鬼になれるかもしれない方法を、鬼が知らなかったのだとしても。

 もっと迷って欲しかった。

 せめて、ずっと一緒に居たいと願う心を、言葉で共感を示してもらいたかった。

 その心情は、狐に鬼を睨み付けさせる原因となったのだけれど。



「まさか、こんなに上手くいくとは思ってなかったけどね」



 クスクスと声に出して笑う声は、鬼の怒りを募らせる物。



「……っ、旭は人間だ! 意図的に鬼にするなんて、許される事じゃない!」



 これまで立ててきた仮説が、ほとんど的中していた事に加え、少年が鬼と化した事実。

 狐にとって、これ程までに嬉しい事は他にないのだろう。

 最早、鬼の荒げた声を、狐が気に留める様子は見当たらない。



「……藍、何言ってるの?」



 ニヤニヤと、愉悦を惜しみなく表情に浮き立たせて。



「誰の許しが必要なの? まさか神なんて言わないでよね」

 

 その目には、狂気すら覗かせていた。
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