渇望の鬼、欺く狐
「俺が……、母ちゃんを……? 守れる……?」



 期待と希望を募らせていく少年の目。



「そうだ。お前はもう藍を守れる。この先、何百年も隣で藍を守れるんだ」



 狐が少年に再度答えた時。

 少年のその目は喜びに溢れ、大粒の涙を生産させた。

 
 狐は笑う。



「ねぇ、藍? 旭は鬼になった事、全然辛いなんて思ってない」



 クスクスと、楽し気に。



「これからは俺たち、ずっとずーっと一緒に居られるんだよー? ねぇ、藍だって本当は嬉しいんでしょー?」



 どこかワザとらしく、間延びした口調で。

 鬼へと擦り寄って。


 少年から滲み出る喜びに、鬼は戸惑いを隠せないでいた。

 人間としての人生を送る事は、少年にとって当たり前の道筋だと疑いもしなかった。

 それは、鬼がどうして鬼になったのか。

 鬼自身がその原因を理解していなかった事も、理由として挙げられるけれど。

 少年が鬼と化す瞬間に、いつかの自分と重ね合わせ、その原因に気付いたところで、すでに遅かったのだ。

 狐の言う通り。

 ずっと一緒に居る事が出来るなら、それが嬉しくないわけもない。

 だけど。

 それが正しい事なのかどうかが、わからない。

 何に遠慮していると言うのだろう。

 言葉を見失う鬼の脳裏。

 その声は、ふいに浮かび上がる。



『――愛してるよ、藍』



 取り戻したくて堪らなかった言葉。

 もう一度聞きたいと、何度も願った。

 願いとは裏腹に、どんどんと遠ざかる声は、今この瞬間鮮明に思い出されて。

 そして鬼は気付く。


 ……あぁ、私は。

 楓と旭に許しを求めたかったのか、と。
< 241 / 246 >

この作品をシェア

pagetop