渇望の鬼、欺く狐
「……そんなに、そいつが可愛い?」



 耳を掠めた雪の声。

 その言葉に、はたと気付く。



 ……あぁ、そうか。

 私は。



 抱けば泣き止む事も。

 下手な玩具の使い方も。

 這って私を追ってきた事も。

 楽し気に笑いながら、角を掴まれた事も。

 美味しそうに飯を食べる事も。

 泣き顔ですら。

 きっと旭の見せる仕草全てに。



「……そうだね」



 可愛い、と。

 そんな風に思えていたのか。



 言われて認めてしまえば、それはあまりにも単純な感情だった。

 その単純な感情に、どうして今まで気付けなかったのか。

 否、気付く事をしなかったのか。

 その答えは。

 きっと自分の根底にあるのだろうけれど。
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