渇望の鬼、欺く狐
 雪の体を抱きしめて頭を撫でてやれば、狐の耳がピクリと動く。

 不安気な表情に笑いかけても、雪はその表情を崩そうとはしない。



「悪かったよ」



 告げた謝罪。

 確かに旭に必要な物を、何度も雪に買出しに行かせていた事は事実だった。



「お前は一人で歩けるし、寝る事も出来るだろう? でも旭はまだ赤ん坊だから。お前が出来て当たり前の事も、まだ何一つ出来ないんだよ」



 雪からは何の返事もなかったけれど。

 私を抱きしめる腕へと込められた力に、きちんと話を聞いている事が理解出来た。

 旭を可愛いと気付くと同時に、きっと雪に対しての感情にも気付いていた。

 面倒臭い、鬱陶しいが、心に忍び込ませた防御線である事を。

 自分が居なければ、簡単に息絶えてしまうのであろう旭と同様。

 きっと私は。



「これからは……、そうだね。三日に一度はお前もここで一緒に寝るといいよ」



 自分の存在が心を支えている、雪の事だって。

 根底ではずっと、可愛いと思えていたのだろう。


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