渇望の鬼、欺く狐
 一瞬見開いた雪の目が、嬉しそうに下がり表情を崩していく。

 何度も何度も私に擦り寄って。

 そんな雪を、もう鬱陶しいとは思えなくて。



「藍、好きだよー大好きー」


「それはもう、何度も聞いたよ」


「でも何回も言いたいんだよー。あのね、俺が一番藍の事好きなのー」


「そう」



 べったりと張り付くように体にしがみつく雪の背中を撫でてやれば、耳には大きく伸びをする声が届いた。

 目を覚ましたらしい旭へと視線を向ければ、旭はきょろきょろと視線を泳がせている。

 やがて私と目が合えば、体を起こして両手を私へと差し出して見せた。



「雪。旭が起きた。抱いて欲しいらしいから、離れてもらえるかい?」


「え……、嫌だよー……。今は俺が……」


「旭が泣いたら、それこそお前を抱きしめてやる時間はなくなるよ」



 不服そうにしながらも、私から離れた雪。

 未だ私に手を伸ばす旭の体を抱き上げた。



「良く寝たね」



 腕の中で体を落ち着けて指をしゃぶる旭に声をかければ、隣からぶつぶつと届く声に気付く。
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