渇望の鬼、欺く狐
 雪を見送り、もう慣れてしまった道を歩く。

 足場は悪いが、それが気にならなくなるぐらいには、私はこの地に馴染んでしまっていた。

 赤子――旭は、歩きながらの揺れが心地良いのか、泣き疲れたのか。

 徐々に大きな泣き声をぐずりへと変化させて。

 それに気付き背中を擦ってやれば、少しずつその目を閉じていく。

 だけど眠り切れないのか、何度もまたぐずって。



「……仕方無いね」



 一つ息を吐いた後、自分が知っている子守唄を口ずさんだ。



 ……歌なんて歌ったのは、何年ぶりだろう。



 よぎる思考。

 それは私自身が考える事を止めた所為で、答えに辿り着く事は出来なかったけれど。


 山の奥へと向け、歩かせ続けた足。

 やがて目に映る社は、私が住処としている場所だった。

 視線を旭へと寄せれば、旭はもう、すっかりその目を閉ざしている。

 私の着物を掴む小さな手。

 あどけない寝顔からは、先程のような大きな声など想像もつかないのに。

 あの泣き声はもしかすると。



「お前の手は小さいね」



 この小さな体が。

「生きたい」と、出せない言葉の代わりに、必死で泣き声を放っていたのだろうか。

 何故だか、そんな風に思えてならなかった。


 
< 6 / 246 >

この作品をシェア

pagetop