渇望の鬼、欺く狐
「ただいまー」



 社に戻った狐が声を放てば、丁度赤子が飯を食べている最中だった。

 鬼の膝に座り、短い足を地面へと伸ばしながら、小さな手で掴んだ匙を皿へと伸ばしている。



「あ、ゆーゆ! ゆーゆ!」


「お帰り。悪かったね。こら、旭。まだ途中だろう? 終わるまで立ち上がっちゃいけないよ」



 鬼の膝から立ち上がって狐の方へ向かおうとした赤子を、鬼が注意して。

 いかにも不服そうな声で、赤子は鬼へと訴えた。



「いやー、ゆーゆ」


「雪が帰ってきて嬉しいのはわかるけど。お前は今、飯を食べてるだろう?」


「いや!」



 鬼に注意されても尚、自分の元へ来たがる赤子。

 それが可愛くて愛おしくて、どう仕様も無くて。

 同時に、困ったような表情を浮かべながら、何とか赤子を説得しようとしている鬼も愛おしい。

 目に映る日常の全てが愛おしく感じる理由。

 狐はそれを理解していた。


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