渇望の鬼、欺く狐
 鬼と赤子に近付いて、鬼の後ろへと腰を下ろした狐は、その手を赤子の前まで回す。

 鬼は着物を纏っているとは言え華奢だし、赤子もまた小さい為に、二人とも簡単に腕の中に収める事が出来て。

 そんな些細な事からも、狐は幸福感を募らせた。



「どうした?」


「んー? ちょっと、こうしてみたくなっただけー」


「二人に挟まれていては、身動きが取り辛いよ」


「でも、旭も大人しくしてるでしょー?」



 狐の言う通り。

 腹部に手を回された赤子は立ち上がる事を止めて、嬉しそうな笑顔を浮かべている。

 それを目に映した鬼は一つ溜息を漏らして。

 それはどこか、諦めにも見えた。



「……仕方無いね」



 密着する事への鬼からの許容。

 許容されなくとも止める事はしなかっただろうが、やはり許してもらえるなら、その嬉しさに勝る物はない。

 鬼の背中に頭を擦り寄せて。

 赤子の頭や頬を撫でて。

 気分がどこまでも高く浮かび上がっていく事を、狐は実感していた。




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