渇望の鬼、欺く狐
 ふと見上げた先。

 そこには以前、狐が贈ったかんざしが映る。

 綺麗に髪を纏め上げて挿されたかんざしは、鬼の藍色の髪に映えていて。

 狐の胸の奥をじんわりと温める物。



「ねぇ、藍ー」


「何だい?」


「あのねあのねー、赤、黄、青の中でどれが好きー?」



 きっと、どれを挿したって、今目に映る物と同じく鬼の髪を美しく引き立ててくれる。

 だからこそ自分では選べない。

 選べないからこそ、全て購入したのだけれど。



「どれと聞かれても。別にどれでも」


「あー、藍がつれないー。ねぇ、教えてよー」


「急にそんな事聞かれたって困るよ」



 拗ねて見せても、鬼はクスクスと笑うだけで。

 だけど、そうして笑ってくれる事がやはり狐を嬉しくさせた。

 いつからか、鬼が自分にも向けて笑いかけてくれるようになった事に、狐は気付いていた。

 出会った頃はそうでもなかったけれど。

 多分、きっと。

 否、確実に。



「お願いー。藍が一番好きな色教えてー?」



 赤子の存在が出来たお陰で。
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