渇望の鬼、欺く狐
 鬼の言葉通り、赤のとんぼ玉が付いたかんざしを手にした狐は、すでに鬼の髪に挿されていたかんざしを引き抜いた。

 纏まりのある髪が落ちる瞬間すらも艶やかで、狐の目を惹き付けて。

 狐が藍色の髪に触れれば、手の中で纏まった髪は藍色を強めた気がした。

 手際良く纏めた髪を捻り上げて挿したかんざし。

 思った通り、赤の原色は藍色を引き立てる。

 
 初めてかんざしを贈った時には、髪の纏め方すら知らなかった。

 呆れた鬼が自分で髪を纏め上げて。

 鬼に強請って、何度も何度も髪を纏めるところを見せてもらったのだ。

 自分の手で初めて挑戦した際には、髪は上手く纏まりを見せず、ハラハラと落ちてしまった事を思い出す。

 呆れを一層強めた鬼だけれど、それに根負けせぬように何回も練習させてもらった。

 繰り返せば繰り返す程に、上手に纏める事が出来るようになった髪。

 今では狐は思い通りの位置に、かんざしを留める事が出来るようにまでなった。

 美しく滑らかな質感の髪と、鮮やかな原色。

 目に映る光景は、狐から満足感を引き出していく。



「藍、綺麗ー。すっごく似合ってるー」


「そう。ありがとう」



 普段通りの淡白な言葉。

 そこから伝わる柔らかさにもにた声質が、鬼の感情を映しているように思えて。

 狐の心情は、浮き立ち満たされた。


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