渇望の鬼、欺く狐
「あーの」


「だから……、悪かったって。今度買ってきてやるから。な?」


「駄目!」



 最近、色んな言葉を話すようになったとは思ってはいたものの。

 何だってこう、嫌だの駄目だの、否定的な言葉ばかり滑舌が良いのだろう。



 そんな事を思いながらに狐が溜息を漏らしたところで、赤子の不服そうな表情が拭える事はない。

 そんな二人のやりとりに終止符を打ったのは、鬼の声だった。



「旭。お前は今、飯を食べてる最中だろう?」


「いや!」


「雪も次は何か土産を買ってきてくれるよ」


「いや!」



 躊躇いなく鬼に「嫌」と放つ事の出来る赤子。

 そんな赤子に、狐は尊敬にも似た感情を静かに抱いていた。

 狐は鬼に否定の言葉を向ける事が出来ない。

 そんな言葉を向けて嫌われてしまったらと思うと、それは恐怖にしかならない事を狐自身が一番良く理解していた。

 初めて会った際には、傍に居たいと必死で中々強引な事を口にしてしまったけれど。


< 96 / 246 >

この作品をシェア

pagetop