渇望の鬼、欺く狐
 何だかんだと傍に置いてくれた鬼。

 時間が経てば経つ程に、鬼という存在に執着して依存して。

 狐にとって、鬼とは絶対的な存在だった。

 だからこそ、鬼が赤子を育てると決めた際にも、本心を口に出し続ける事が出来なかった。



 自分だけの存在であって欲しい。

 他に目を向けないで欲しい。

 鬼に触れる事の出来る存在など、自分だけで構わない。



『まさか、それ育てようとか思ってる?』



 あの瞬間、狐の強すぎる思いは、かろうじて言葉として紡ぐ事が出来た。



『文句あるかい?』


『えーあるよー。だってさぁ、今まで俺と藍の二人っきりで、仲良くやってきたじゃん。何でそんな泣くしか出来ない奴に、邪魔されなきゃなんないのー?』



 だけど。



『二人っきりで仲良く、は心外だね。お前が勝手に懐いてきただけだろう?』



 鬼から突き放されたその言葉に、狐の胸中は抉られるような痛みを覚えてしまう。



『でもさ、藍。――鬼が人の子を育てるなんて変だよ?』



 きっと狐にとっては、足掻きにも似た感情からの言葉だった。

 何としても、人間の赤子なんかに鬼との時間を邪魔されたくはなかった。

 なのに。



『ただの化け狐でしかないお前に、そんな事関係あるか?』



 鬼は更に強い言葉で狐を突き放したから。

 それ故に、狐は諦めざるを得なくなってしまった。

 これ以上、自分の本音を口に出せば、本当に嫌われてしまうと感じて。

 鬼の傍を陣取り、自分よりも近い距離を手に入れた赤子に、敵対心を抱きながら。

 口には出せない感情は、きっと態度に表れていたのかもしれないけれど。
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