六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】
「……せいぜい、あがけ」
冷たく低い声が落ちてきて。
滋の手が、着物の帯にかけられた。
「触らないで!!」
必死で爪を立てるが、その太い腕はびくともしない。
耳には衣擦れの音と、忍達の読経だけが、聞こえる。
嫌だ。
押さえられた手を動かそうと、必死にもがく。
嫌だ、まだ死ねない。
瑛さんに真実を話せないまま。
あの人を孤独にしたまま、死ねない――。
抵抗も虚しく、乱暴に着物が暴かれ、
襦袢があらわにされた、その時だった。
「……?」
滋の動きが止まり、目を開ける。
彼は獣のように、上体を起こして耳をすませていた。
すると、すぐにあたしの耳にも異常が聞こえてくる。
「……!」
一糸乱れる事のなかった、忍達の読経の声が、小さくなっている。
代わりに、違う声が混じっていた。
それは悲鳴とも、怒号ともつかない。