シャクジの森で〜青龍の涙〜
エミリーが階段を上がり切り、レオナルドに連れられて目の前に来た。

少し不安げに見上げてくるアメジストの瞳を見ると、自分の方が不安だったと伝えたくなる。

無言のまま差し出した手に、遠慮がちに乗せる小さな手をぐっと握り締めてそっと抱き寄せた。

腕の中のしなやかな身体が、す・・と脱力するのを感じホッと安堵の息が漏れる。

彼女の反応一つで一喜一憂する自分に呆れてしまうが、仕方がない。

それ程に心を囚われているのだ。



「―――レオ、世話を掛けたな」言いながら、上着を返せば、「あぁ、全くだ」と言って受けとる。

その体が、グラリと揺れた。


「ね、レオナルド様、早くしないと宴が終わってしまうわ」



早く!とぐいぐい引っ張って会場の方に誘おうとするニコルが目に入る。

レオナルドは、その頭を宥めるようにポンポンと撫でた。

まるで、可愛い妹を宥める兄のようだ。

ぷくっと頬を膨らませるニコルの方は、違う感情を抱いているようだが。



「ニコル殿。すまないね。だが、アランに話があるんだ。もう少しだけ、待っててくれ」

「分かったわ。少しだけよ?あ――――それならそうだわ!私も、王子妃様にお話があるの。少しだけ、かして下さい」



ニコルに連れられてテラスの隅に移動していく姿を見送り、アランはレオナルドに向き直った。



「何だ?」

「いや、先ず、報告をせねばと思ったんだ。―――彼女を、抱き締め、想いを伝えた」



一泊置いて言葉を区切りながら言うレオナルド。

わざわざそんなことを伝えるとは、何を考えているのか。

相変わらず、思考が読めない男だ。

そう思いながら無言のまま、アランはぎらっと光るグリーンの瞳を見据える。

もしや、殴られたいのだろうか。



「それから、柔らかな頬を包み、キスをし―――」



即座に反応した体は、考える前に動いていた。

気付けばレオナルドの首を掴む自分がおり、苦しげに眉を歪める友人の顔を淡々と見ていた。

心に潜む銀の龍は道中からずっと目覚めており、ほんの少しのきっかけで顔を覗かせる。



「ま・・待て。しようと思っただけだ。何もしていない。安心しろ」



本当だな。と聞けば声もなく頷く。

ゆっくりと力を緩めて離すと、レオナルドは、喉元を押さえながら大きく息を吐いた。
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