シャクジの森で〜青龍の涙〜
「・・十分だ。それならば、彼女を守り切れるだろう」



もう昂るな。

そう言って、レオナルドはアランを宥めるように肩に手を置いた。

「試したのか」と聞けば「あぁそうだ」とあっさりと答える。その瞳が、再び真剣な色を宿してアランを見据えた。



「君も気付いているんだろう?ならば、これ以上は何も言わない。だが、私も居ることを忘れないでくれ」



アランは、レオナルドの言わんとしていることは、何となく分かった。

道中からずっと、かつてない不穏な空気を感じ取っている。

それは、この土地自体が発するものなのか。

それとも人が発するものなのか。

或いは、両方なのか―――


気になることは無数にある。

レオナルドの気持ちを有り難く受け、アランは友人の手をがっしりと掴んだ。

異国の地。数少ない心強い味方だ。



「―――頼む」

「あぁ勿論だ。大いに、頼ってくれ」



互いの友情を再確認し、アランはテラスの隅に目をやった。

エミリーはニコルと話をしていて、今のを見ていなかったよう。

安堵しつつ見守っていると、満面の笑顔のニコルと、薔薇色に頬を染めたエミリーが戻ってきた。

潤んだアメジストの瞳が、アランをじーと見つめている。

ニコルと何を話したのだろうか。



「レオナルド様、約束よ?」

「よし、ニコル殿。ならば、もう嫌だって言うくらい踊ってやろう」

「っ、望むところだわ。若さをなめないでよね!」



思わず笑ってしまうような会話を交わし、仲よく会場の中へ消えていく二人の姿。

年の差はあれど、なかなかお似合いに思える。


会場から、緩やかな旋律が聴こえてくる。

アランは跪いてエミリーの手を握り、そっと囁いた。



「エミリー、私と踊ってくれるか?」

「――はい。アラン様、喜んで」


微笑み、作法通りに受けるエミリーの手をとり、会場に戻ることなくアランはリードを始める。

柔らかな月明かりの落ちるテラスで、二人は時折唇を重ねながら、心ゆくまでダンスを楽しんだ。
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