シャクジの森で〜青龍の涙〜
この国に来てから毎晩逞しい胸に抱かれていつの間にか眠っていたので、分からなかった。

二人並ぶとここのベッドはこんなに狭いのだ。



「これだと、ゆったり眠れなくて、アラン様の疲れがとれないわ」



どうしてアランは今まで何も言わなかったのだろう。

やっぱりエミリーを気遣ってくれていたのだろうか。

もしかしたら、あっちのお部屋のベッドの方が大きいかもしれないのに。

そんなことに今更気付いた自分が情けなくて、エミリーは哀しくなってしまう。


訴えかけるようにじっと見つめるけれど、ブルーの瞳は見つめ返してくるだけで自室に戻る気配はない。

それなら。

せめてもの思いで、自分側の端っこまで移動しようと、身体を動かし始めた。



「ん・・おもい・・・」



動いてるのがわかってるはずなのに、身体の上にあるがっしりと力強い腕はこれっぽちも緩まることがなくて、何とも動きづらい。

それでも懸命にずりずりと移動していき、端まで来られたエミリーは、ふぅ・・と一息吐いた。

努力のかいあって、真ん中が少し空いている。

これなら・・・。



「アラン様?もう少し、こっちに来てく・・・ゃっ」



ぽんぽん・・とベッドの上を叩くと、もう気はすんだな?と、動いた分だけ一息にぐいっと引き戻されてしまった。



「どうして?」



唇を尖らせて見上げるエミリーの身体は、息苦しいほどにぎゅうぅと抱き締められてしまい、それ以上何も言えなくなる。



「すまぬ、エミリー。私を気遣ってくれるのは大変愛らしく、正直嬉しく思う。この頬が緩む程に。だが、それ以上に、私は――――」



くるんと仰向けにされた華奢な身体の上に、逞しい体が覆い被さる。

ベッドサイドの灯りに照らされた瞳には真摯な色が宿っていて、エミリーは無言のままただ見つめた。



「・・・分からぬか?私が眠れぬ理由があるとすれば、それは、決して、ベッドの狭さではない。“愛しい者の姿が傍にない時のみ”だ」



アランは、エミリーの手を自らの胸に導いた。

とくんとくんと定期的に刻まれる鼓動が、小さなてのひらに伝わってくる。



「いとしい・・もの?」

「そうだ。私は、いつでもどこでも眠ることが出来る。例え堅い床の上であろうと、岩の上であろうと。そこしか場がなければ十分に休息できる。有事の際にも常に冷静であり、この鼓動が乱れることはない。だが、ただ一つだけの要因で、この心臓はいとも簡単にざわつく。痛み、どうにも制御できぬ感情に支配される――――」
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