シャクジの森で〜青龍の涙〜
手の上に重ねられていた筈のアランの手は、いつの間にかエミリーの頬にあり、親指はふっくらとした唇を撫でていた。

怖いくらいの真剣な瞳が、唇のあたりを見つめ、ゆっくりと近付いていく。



「我慢しておったのだが・・・・」

「ぁ・・・ん・・・ん・・」



甘く熱いくちづけ。

唇を割り口中に侵入したアランが、エミリーの意識を絡め取っていく。

か細い指でアランの服をきゅっと掴んで、何とか意識を保とうとするも、強く、ときには擽るように優しくなぶられ、身体の芯が痺れて熱くなり、次第に力が抜けてしまう。



「ん・・・ふ・・ん・・」



切ないほどの吐息を溢して体からゆっくりと落ちていくか細い指を、長い指がそっと絡め取ってベッドの上まで導いた。

やがてリップ音を鳴らして離れていく濡れた唇を、潤んだアメジストの瞳が見つめる。



「これ以上は、私の理性がもたぬ・・・」

「アラン様・・・」



艶を含んだままのブルーの瞳がエミリーの視界から消え、逞しい体は隣に沈んだ。

再びリラックスした姿勢になり、武骨な手は柔らかな金髪を撫で始める。

瞳からは、既に艶やかな色は消えかけていた。



「・・・君は、いつでもこの腕の中におれ。それだけで私は安眠出来るゆえ・・・分かったな?」

「・・・はい。アラン様」

「それで、良い」



エミリーは、その後もぐっと抱き寄せられ額にキスをされ、君は私の主ゆえ気遣わずとも良いのだ。安心せよ。私は平気なのだ。と呪文のように繰り返された。


そのうちに、アランが髪を撫でるのを止めて背中を摩り始めたので、エミリーは眠気でトロトロとしながら目の前にあるサラサラの銀糸を指に絡めた。

銀色が灯り色に染まりながら、指の間からするすると零れ落ちていく。

何度も繰り返しているその指を、武骨な指がそっと絡め取って掌の中に収めた。



「エミリー・・・止めよ、手が痛むゆえ」



静かに窘める声。

いつもなら全体をぎゅっと握り込んでしまう大きな手は、包帯の巻かれた部分には触れないように指だけを包み込んでいる。



「でも、もう、痛くないの」



かすり傷なのに大袈裟にも思える包帯は、やたらと心配をかけてしまってるようで、取ってしまおうかとも思う。

けれど、取ったらそれはそれで傷を覆うガーゼが目に入って、余計に気に掛けてしまうかもしれない。

そうだった。

アランは超がつくほどの過保護だったのだ。



「傷は、ほんの少しなの」

「それでも、駄目だ。それに・・・愛らしいゆえ、困る・・・許せよ」

「・・・こまる・・・の?」


意味が良く分からずに瞳を瞬かせるエミリーに対し、アランは、分からなければそれで良い、と言って柔らかく微笑んだ。
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