シャクジの森で〜青龍の涙〜
「あの、それなら、シャルルにも、力があるのですか?」



もしもそうなら、故郷に帰らない方がいいのではないだろうか、そう思ってしまう。

エミリーも天使の力が宿ってからはとても暮らし難かったのだ。

いくら動物とはいえ、それはシャルルにも――――



『・・・月の雫があれば、世界の狭間を超えるのは力がなくても出来ます。あなたのご両親のように。でも私は、念のために、シャルルにも力を分けておきました。あの国に入ってしまえば、唯一、なんとか手が届くのは、私の力を持つあなたと、分けたシャルルのみなのですから。ですが心配しないで、彼の力は極々小さなものです』

「そうなのですか、良かった・・・」



両親のもとに返すことが出来ると安堵すると、ある考えがひらめいた。

そうだ。

シェラザードならば知ってるかもしれない。



「シェラザードさま、アラン様が・・・アラン様が見つからないんです。どこにいるか、わかりますか?」



すがるようなアメジストの瞳が、シェラザードの微笑みを見つめる。

シェラザードは、今にも涙を零しそうなエミリーをそっと包み込み、宥めるように背中を撫でた。



『彼のことは、私達の力が及ばず本当に申し訳ないことをしました。でも大丈夫、そんな顔をしないで。私は、そのことも伝えに来たのです。彼は今――――・・・』




話を聞くエミリーのアメジストの瞳に、安堵の涙が浮かぶ。

伝えたいことをすべて話し終え、シェラザードは光の余韻を残しながら消えていった。


部屋の中に家具と窓が戻り、エミリーはすぐに準備を始めた。

着替えるのももどかしくナイトドレスの上にマントを羽織り、シャルルに紐を付け、月の雫をポケットの中に仕舞い、扉へ向かう。


取っ手を握る手が一瞬だけ戸惑いを見せる。

そう、大きな問題が一つあるのだ。


そぉっと、音を立てずに開け、顔だけを出して視線を左右に投げる。


今は真夜中。

あちらもこちらも、廊下には、今のところ誰も見当たらない。

警備室にも人影は見えない。

きっと、フランクの薬のおかげでぐっすり眠っていると思っているのだろう。


シャルルと一緒に滑るように廊下に出て静かに扉を閉める。

ここまでは、イケた。

ここから先は―――


花月の時にアランと一緒にこっそり抜け出たことを思い出す。


そう、スパイだ。

あんな風に行ければ――――


ドキドキしながら廊下を歩き、階段を下りて、最後の難関、玄関に向かう。
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