シャクジの森で〜青龍の涙〜
「・・・ん・・ぅん・・シャルル・・シャルルなの?・・ダメ・・くすぐったいわ・・・」


武骨な指先が耳元あたりの髪を梳かすように優しく撫でていると、エミリーは瞼を閉じたままむにゃむにゃと呟いた。

スゥスゥと寝息が聞こえるところをみると、まだ目覚めてなく夢の中にいるよう。

アランが少し身動ぎをすると、柔らかな身体がモゾモゾと動き逞しい腕にすりすりと頬を埋める。

か細い指はアランの胸元辺りの服をきゅっと掴み、まるで起きているかのよう。



「ん・・もうすこしだけ・・ね・・シャルル・・そばにいて・・」



ふっくらとした唇が弧を描き、幸せそうな微笑みを作る。

そんな様子を見、アランは髪を撫でる手をピタリと止め、不機嫌そうに呟いた。



「全く、君は・・・誰の腕の中だと思っておる・・・」



腕枕はそのままにしつつ一糸まとわぬ身体の上にふわりと覆い被さり、空いた方の手で自らの服を掴む手指を外して絡め取った。



「・・・くすぐったいとは・・漸く目覚めてくれたか?」



少しばかり本気の気を入れ、耳元で囁くアラン。

その何とも低い響きに反応し、微睡んでいたエミリーの意識が少しずつ覚醒していく。

長い睫毛をふるふると震わしたのち、ゆっくりと瞼が開かれた。

ほんのりと明るい灯に照らされ、アメジストの瞳がゆらゆらと煌く。



「ん・・・アラン様・・おはようございます」



少しの気だるさを感じてぼーっとしながらも、エミリーは不思議な思いで目の前のアランを見つめていた。


目覚めて最初に映ったのが眉を寄せた表情で、いつもとあまり変わらない気がするけれども、見つめてくる瞳が細まっていて鋭い感じ。

よくわからないけれど、なんだかちょっぴり怒っているよう。

しかも何故だか身体をがっちりと拘束されていて身動き一つできない状態。

肩からさらりと零れおちている銀髪が頬に当たっててとてもくすぐったいし、いつものように髪を触りたくても、しっかりと指を絡められていてぴくりとも動かすことが出来ない。


一体これは?

何かいけないことをしたのかしら?


昨夜からの出来事のアレコレをぼんやり思い返してみても、怒られるようなことなんてまったくちっとも身に覚えがない。


瞳にハテナマークをたくさん浮かべてアランを見つめるけれど、ブルーの瞳はひたりと定まったまま動かず、いつもならばちょっぴり弧を描く唇も、引き結ばれたままで少しも動かない。
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