死神少年
姉さんはぴくりとも動かず、瞳を閉じたままだった。


――35日


俺が死神に姉さんの残り寿命を尋ねた時に返ってきた答えだ。


あの時の死神の声が、まるで波紋のように頭の隅々に響き渡る。


俺は今更ながら、その言葉を実感した。
ああ、姉さんは死ぬんだな、と。



――姉さん、頑張ろう? きっと治るよ



いつしか、姉さんに言った言葉だ。


そう、確かあれは主治医から手術の説明を受けた直後だった。


あの時、悲しげに笑った姉さんの顔を、俺は今でも鮮明に覚えている。




姉さんは知ってたんだ。




俺が知らなかっただけで、姉さんは一人でずっと悩んでいたんだ。


そんなことにも気付いてやれず、俺は何度も無責任な言葉を彼女に言って、それで安心させていた気でいた。

俺は姉さんではなく、俺自身を励ましていただけだった。

彼女にとって重荷にしかならない言葉を何度も言って自分だけ安心して、結果的に不安や絶望を、幾つも背負わせて、俺は


最低だ。



「さぁ、どうする?」



ガラスごしに不敵に笑う死神の姿が映った。


「これでもまだ、お前はテストを受けないと言い張れるか?」








俺はガラスに押し付けた手を下ろすと苦笑した。


「そういうことかよ」


つい数時間前の奴の言葉が頭を過(よ)ぎる。

“テストを受けざる終えなくなる"と奴が言っていた言葉の意味が、今ようやく理解できた。いや、確信できたと言うべきか。


「好きなんだろ? その女が」


死神はガラスの向こうを顎でさして「いや、愛してるって言った方が正しいかもな」と付け加える。

振り返ると、死神はやっぱり笑ってた。



「あんたよく笑うよな 死神のくせに」

「悪いかよ」



死神は左の口元を少しゆるめて答えた。
その口元から覗く白い歯は、奴の漆黒の瞳や髪によってより引き立っていた。


どんなに悪い奴でも必ず一つはいい所があるんだな。 みたいな、数少ない白い部分を見つけたような、そんな気分になった。


「死神か少年か……俺は、死神を選ばせてもらうよ」



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