死神少年
和美姉さんに会えるなら頼まれなくても来るつもりではいたし、好都合だった。



「姉さんこそ、ちゃんと食べなきゃダメだろ?もうすぐ手術なのにこんなに痩せちゃって」

「お母さんみたいなこと言わないでよ」



姉さんは少し怒ったような口ぶりでそう言うと、そっぽを向いてしまった。


姉さんは嫌な事があるとすぐにふて腐れる。

無理もない、人と接してきた時間が少ないから、どうしても精神面で幼くなってしまうのだ。


彼女のようにプライドが高くて、人に弱みを見せないような人は特に。



「ごめん。でも俺は姉さんの事を心配して言ってるんだよ。わかってくれるだろ?」


姉さんは少しムッとした顔をしていたが、観念したようにこくりと小さく頷いた。



「それじゃ、お昼はちゃんと食べるんだからな。 わかった?」



姉さんが返事をせずに視線を窓に逸らす。


俺はその視線の先に立ちはだかりもう一度「わかった?」と念を押す。姉さんは「わかったわよ!」と半分叫び声のような返事をする。


それを聞いて安心し、俺は身仕度を始めた。



「もう行っちゃうの?」


姉さんが指を遊ばせながらつまんなそうに言う。



「部活終わったらまた来るから」



姉さんの頭をぽんぽんと軽く叩いて言い聞かせる。


これじゃこっちがお兄さんみたいじゃないか。と内心は半分呆れ気味だが、これはこれでいいのかもしれない。


俺は昔から世話やきだから、こういうのは嫌いじゃないし。

じゃあな、と姉さんに軽く手を振って小走りで病院を出る。


自動ドアを無理矢理摺り抜けて走っていると、耳元で声が聞こえた。


「優しいねぇ 音穏お兄ちゃんは」

「……えっ?」


振り返るが誰もいない。まだ朝だしそこまで人が多いわけでもない。多分空耳なのだろうが、それにしては少し生々しかった。


それにまるで冷やかすような言い方だったので、何だか朝から憂鬱になってしまった。


その憂鬱を吹き飛ばすように、俺は自転車を飛ばして学校まで突っ走った。


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