死神少年
部活を終える頃には、空もうっすら朱くなっていた。


時々立ち漕ぎをしながら、少々急ぎ足で病院へ向かう。あんまり遅くなると姉さんがすねてしまうからだ。


階段を上がり、いつものように姉さんの病室に向かっていた。


だが見ると姉さんの病室の前に少年、いや青年と言うべきか痩身の男が一人立っていた。


夏だと言うのに黒のジーンズに黒い長袖シャツと、肌身を隠しきった全身真っ黒なそいつは、まるで悪魔ようだった。


耳にはいくつものピアスが付いていて、風貌からしても、あまり関わりを持ちたくない類の人間だ。


無視して通り過ぎようとしたその時、その青年にガシッと肩を掴まれた。


「お前……俺が見えるんだ」


男はニヤッと悪魔のように笑うとそう言った。


「何だよ」


俺は奴を睨みつけた。


「まぁ、そんな怖い顔するなって。 屋上行って話でもしようぜ」

「あんたと話すことなんかねぇ。つーかその手どけろよ」


男の手を振り払おうとしたが、相手の力が強すぎてなかなか振り返えない。


そこへ病室から姉さんが「何やってるの?」と駆け付ける。


「いや、こいつが」

「こいつ? 誰の事いってるの?」

「えっ……!?」


振り返るが、男は確かに目の前にいる。
尚も俺の肩を掴んだまま。


「ていうか、音穏くん一人で何やってるの?」


どうやら、本当に姉さんにはこの悪魔が見えていないらしい。振り返りもう一度男の存在を確認した。


すると奴はまたニヤッと憎たらしく笑ってその場を去って行った。
俺は呆然と奴の後ろ姿を見送る。


「ねぇ、どうしたの? さっきから」

「……なんでもないよ。 ほら、早くベットに戻らなくちゃ。また看護婦に叱られる」


背中を押しながら、姉さんを病室に連れて行く。何だか悪い予感がする。


さっきの事にはあまり触れない方が良さそうな気がする。

とその時、頭の中で今朝の出来事がフラッシュバックした。


今朝聞こえたあの空耳と男の声、同じじゃなかったか? いや、気のせいかもしれない。 だがもし声の主が同一人物だとしたら……。


あの男、普通じゃない。


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