死神少年
「もし……あんたがテストを最後までやりとげたら、あんたは死神になるわけだ。」

「だから? そんな事はわかってる」

「いいか、死神だ。死神になるんだ」

「わかったから、何度も同じ事、言うなよ」

「あんたは、死神として全てを受け入れなくちゃならない。そしたら……」



ジノは不意に口を紡いで顔を伏せる。言葉を選んでるようだった。


いつもと違う雰囲気に、鼓動が高鳴る。危機感が募る。



「そしたら?」



ごくりと唾を飲み込む。



「あんたは……人間じゃいられなくなる」



シンと部屋が静まり帰る。車が一台、家の前を通り過ぎた。


音も光りもないこの部屋に、エンジンの音が容赦なく入り込む。 お互いの顔を、薄い黄色のライトが通り過ぎる。


俺は一つ、大きく息を吐き出すと、体を横にした。



「なんだよ、そんなことか」

「そんなこと?」



俺はジノに背を向けていたが、彼が伏せていた顔を上げて、その顔が酷く歪んでいたことは、声から察しがついた。



「あんた、言ってる事わかってんのか?」

「わかってる」

「そうか……だけど、これだけは言っておく」



俺は体を起こし、背けていた目をジノへ向ける。



「捨てろ」



一瞬何を言いたいのかわからず、俺は「は?」と小さく情けない声を出す。



「……何を?」

「全てだ」



ジノの目はニコリとも笑っていなかった。今まで見た中で、1番真剣な顔をしているかもしれない。



「スベテ?」

「そう、親友も家族も夢も希望も絶望も、それから恐怖も」


俺の胸のど真ん中を、鋭い奴の指先が軽く突く。長くのびた爪が、Tシャツの薄い布生地をつたってちくりと胸に突き刺さる。



「そして、その胸の中にあるちっぽけな慈悲心も、全てだ。」



そう言って、奴は窓を透りぬけ姿を消した。 青月の淡い光り照らす、闇の中へ。


俺は窓を開ける、先ほど出て行ったジノの姿はない。


空を見上げた、ジノの言っていた通り、綺麗な月だった。


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