死神少年
「なるほど、それじゃ今度は俺が質問してもいいか?」

「どうぞ」

「その少年の事だけど、単に俺に挨拶しなかっただけだとしたら? ほら、最近の若者ってそんなもんだろ?」


俺の問い掛けに女はまるで新しい悪戯を思い付いた子供のように、憎たらしくもかわいらしい笑いを浮かべる。


右手を横に真っすぐ上げ、その先を指差しながら「窓」と言う。


俺は女の指差す窓を見つめる。 窓の景色の右半分を桜か何かの木が被い隠し。
もう半分の向こうには、青い空と巨大な入道雲が見える。



「いい天気だな、でも午後からは雨が降るらしぜ? しってたか?」

「あなた、ガラスに映ってないわ」



下手なごまかしは意図も簡単に見破られ、女は「どうよ」とでも言わんばかりに腕を組んで勝ち誇ったように笑う。



「ご明答、確かに俺は普通じゃないし、人間でもない」



俺は目の前にあったお見舞い用のフルーツ籠から、林檎を一つ手に取る。
弄(もてあそ)ぶように宙へ投げ、取る。


「でも、それだけじゃ俺が死神だって証拠にならない。もしかしたら、ただの幽霊かもしれない、そうだろ?」

「それは……」



先ほどの笑みは消え、女が組んでいた腕を緩める。苦笑しながら「女の勘?」と首を傾げる。その仕草が、かわいらしかった。
なるほど少年は中々いい女を見つけた。



「ここまで来てといてそれかよ、あんたの名推理に、少しは期待してたんだけど?」

「それでも、やっぱり死神なんでしょ? わかるよ、なんとなく。」



女は窓に視線を向ける。ずっと遠くを見つめるように、あの入道雲よりもずっと遠くを見つめているように、俺には思えた。



「わかんないだろ」

「わかるよ!!」



女が力任せに握った布団に、シワが出来る。
「わかるよ」と同じもう一度力無く呟いて、布団のシワが消えていく。


しばらくの間、病室には俺の手と林檎の擦(こす)れる渇いた音だけが響いていた。


次に女が口を開いたのは、俺が21回目に投げた林檎を取った時だった。



「私、もうすぐ死ぬんでしょう?」



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