死神少年
何度忘れようとしてもあの男の笑顔が脳裏にべったりと張り付いて、それをとり剥がす事は出来なかった。
結局あの後、姉さんに気分が優れないとか適当に嘘をついて、俺はいつもより早めに家路についた。
自転車を漕ぎながら、俺は尚もあの男の事を考えていた。
だがよくよく考えてみればただ単に疲れていただけかもしれない。確かに空耳もあの男もリアルで生々しかったが、ただの幻覚や幻聴だったのかも。
そういえば最近夏休みだからと言って夜更かしし過ぎていた気がする。 今日は早めに寝てちゃんと休もう。
そんな風に俺はこの事を簡単に解釈していた。家に着いて自室のドアを開けるまでは。
「よお」
ドアを開けるとベットにニヤニヤと憎たらしい笑顔を浮かべてあの男が座っていた。
俺は深呼吸を一つするとゆっくりとドアを閉めて部屋に入る。
こいつは幻覚だ相手にしちゃいけない。無視するんだ。 と自分に言い聞かせながら俺は部活でくたびれたスポーツウェアを脱いだ。
「オイ、無視すんなよオイ」
無視だ無視。こいつは幻覚なんだから。
俺は男を無視して平常を装い、着替えを続けた。
「聞・い・て・る・か?」
無視。
「オイ、てめぇ聞こえてんだろが。無視すんなよ」
無視。
「無視すんなー!!」
男がベットで暴れ出したので流石に俺も我慢の限界を越えた。
「あ゙ーもーわかったから! 無視すんのやめるって。だから暴れるな! 大人しくしろ!!」
途端に男はピタッと動きを止めた。
お互い怒鳴ったりなんだりで息が上がって、部屋はしばらく二人の呼吸の音でせめぎ合っていた。
「お前……何者だ?」
先に呼吸を調えた俺が男に質問したのと同時に、ガチャッと部屋のドアが開いた。